筆者プロフィール
重松貴志(しげまつたかし)
1975年生まれ。フリーライターとしてランニングやマラソン大会の情報発信を手掛けつつ、2020年からランニングのトレーナーを開始。
北京で開催されている万里の長城マラソンの日本事務局代表であり、裸足ランナーとして裸足でフルマラソンを25回以上完走という実績を持つ。
「自由に走る」をテーマに、常識にとらわれないランニングの楽しみ方を提案している。
新型コロナウイルスの影響で、秋マラソンの多くが中止を発表しましたが、マラソン大会がすべてなくなったわけではありません。秋でもまだ開催予定で進めている大会もありますし、冬マラソンはまだ検討中がほとんどです。
そうなるとランナー側としては、いつでも走れるように準備をしておきたいところです。ただ、闇雲に月間走行距離を伸ばしていくだけではいけません。きちんと1年間のプランニングを行い、狙った大会に照準を合わせてトレーニングをしていきましょう。
そのためのプランニングのコツや、準備をするときの心構えについて解説していきます。
■冬のマラソン大会を軸に年間のトレーニングプランを立てる
以前「【お役立ち情報】脱自己流!知っておきたいマラソン練習の基本知識とトレーニング方法(https://do.l-tike.com/column/6530/)」として、マラソントレーニングの基本的な練習方法をお話しましたが、今回はそこから1歩踏み込んだ「結果を出すため」のお話です。
まずマラソン大会で結果を出したいと思うのであれば、どの大会に照準を合わせるのかを決めましょう。今年は秋のフルマラソンがほとんど中止になっていますが、例年であれば秋に1レース、冬に1レースとするのが一般的です。
ベテランランナーの中には毎週フルマラソンを走るという人もいますが、記録を狙うという意味ではおすすめできません。1回のレースでオールアウトした場合、回復にはおよそ1ヶ月かかると言われています。頻繁にマラソン大会を走ってしまうと、身体はどんどん消耗していきます。
秋と冬に1レースずつ走るとして、記録を狙うべきは冬の大会です。秋の大会は気温が25℃以上になることがあり、スピードを出すことができません。マラソンにおけるベストコンディションは10〜15℃程度で、そういう意味でも記録を狙えるのは冬マラソンです。
冬のマラソンなんてだいぶ先だと思うかもしれませんが、マラソンにおけるトレーニングの手順を考えると、実は思った以上に時間に余裕はありません。6〜7月からきちんとトレーニングプランを立てて準備をする必要があります。
■まず体作りを行ってからスピード練習を行う
マラソンを走るときに必要なのは持久力。そう思っている人が多いかと思いますが、それだけでは過去の自分を越えていくことはできません。なぜなら人は20代を過ぎると年々筋力が落ちていくからです。筋力はスピードに直結するので、筋トレをしないとスピードを出せなくなります。
このため、マラソンのトレーニングプランとしては、まずは体作りから行います。
6〜9月:体作り
10〜1月:スピード練習
基本的にはこのように、期間ごとに目的を決めてトレーニングを行ってください。それぞれの目的ごとにどのようなトレーニングをすればいいのか見ていきましょう
●6〜9月の「体作り」ですべきこと
夏場は「走れる体」を作り上げることに集中しましょう。ここが1年を通じて結果を出すためのベースになります。土台がしっかりしていないと、どれだけシーズン中にがんばっても、なかなか結果が伴いません。
体作りの時期にするべきトレーニングは2つです。
・長時間のスロージョギング
・筋トレ
まずは長い距離を走れるだけの体を作りましょう。スピードは必要なく、むしろ会話を楽しめるスロージョギングのペースが理想です。ゆっくりと長い時間走り続けてください。1回で2時間くらい走れるのがベストですが、夏は暑いので分割してもかまいません。
午前中に1時間30分、夕方以降に30分のように分ければ、無理なく2時間走ることができます。平日2時間が難しいという人が多いかと思いますので、そういう人は坂道でスロージョギングを行いましょう。負荷が大きくなるので短時間のトレーニングでも効果を得られます。
スロージョギングを続けると遅筋の毛細血管が発達し、長い距離を走れるようになります。
ただ、それだけでは速く走ることができません。ある程度のタイムで走ろうと思うと、それなりの筋力が求められます。筋力がついていれば1歩で進める距離が長くなり、自然とタイムが縮まります。
筋トレといってもジムに通う必要はありません。スクワットとジャンプを行うだけで必要な筋肉がついてきます。スクワットにもいくつか種類がありますが、ランジスクワットを20分程度行ってください。
ジャンプは縄跳びでかまいません。縄跳びがない場合には階段の昇降でもいいでしょう。こちらも20分くらいを目安に行ってください。ランジスクワット10分+縄跳び10分(階段昇降10分)を2セットできればいいのですが、最初はそこまでできないかと思います。無理のない範囲で行いましょう。
この時期のトレーニングプラン例を示しておきます。
土曜日:ジョグ(回復)
日曜日:長時間のスロージョギング
月曜日:休養
火曜日:筋トレ
水曜日:ジョグ(回復)
木曜日:長時間のスロージョギング
金曜日:筋トレ
最初はこの半分もできないかもしれません。特にスクワットは体が慣れるまで重度の筋肉痛を引き起こしますので、疲労が残っていると感じたら、程よく休養を入れてください。
●10〜1月の「スピード練習」ですべきこと
夏の間にしっかりと体作りを行ったら、秋からはスピードを付けるトレーニングを行います。筋力もしっかりと付いていますのでスピードを出しやすく、気温も下がっていますので追い込んだトレーニングをしやすくなっています。
ここで行うトレーニングは2種類です。
・インターバル
・ペース走
いわゆるポイント練習と呼ばれるもので、以前お話した内容と同じです。
インターバルは高負荷なランと休息を交互に繰り返すトレーニングです。心肺機能向上と筋力アップ、ペース走は筋持久力のアップを狙って行います。
・400m×10本
・1000m×5本
最初はこの2種類だけ覚えておきましょう。400mもしくは1000mを最大心拍数の90%程度で走り、休息は止まらずにジョグでつなぎます。ジョグの時間は高負荷でのランにかかったのと同じ時間を目安にしましょう。400mを90秒で走ったらジョグも90秒です。
ペース走は10〜20kmの距離を決められたペースで走ります。レースで想定しているスピードで行うのが理想です。サブ3を狙うなら4分15秒/kmで、決めた距離を走り続けましょう。このペースを覚えることも重要です。
すでに走れる体ができているので10kmから始め、徐々に距離を伸ばしていきましょう。1月に20kmのペース走ができるようになっていれば、目標達成もそう難しくありません。
このインターバルとペース走を1週間に1回ずつ行ってください。トレーニング例を載せておきますので参考にしてください。
土曜日:ジョグ(回復)
日曜日:長時間のスロージョギング
月曜日:休養
火曜日:インターバル
水曜日:ジョグ(回復)
木曜日:ジョグ(回復)
金曜日:ポイント練習
短い距離ばかりになるとせっかく長く走れるようになった体がなまってしまうので、週に1回2時間のスロージョギングを入れておきましょう。
■強度の高いトレーニングは半年で52回しかできない
マラソンシーズンに向けて、6〜7月から動き出すのは早すぎるのでは?夏は暑いから休養にしたほうがいいのでは?そういう意見もあるかもしれませんが、7月からトレーニングを開始するとしても12月までの間に行える強度の高い練習は約52回(1週間2回×26週)しかありません。
実際には仕事が忙しかったり、予定が入ったりして40回くらいできればいいほうではないでしょうか。半年でそれだけしか強度の高い練習ができないうえに、体作りの時期とスピード練習の時期があります。そうなるとインターバルやペース走は、それぞれ10〜13回しかできません。
人間の体は思った以上にゆっくりと変化していきます。漫画やアニメの世界では数日で驚くような変化が起きることもありますが、私たちが向き合っているのは現実の世界です。コツコツ積み重ねるしかなく、半年間ではそのチャンスは52回しかないわけです。
そう考えると、夏に休んでしまうなんてこと言っていられませんよね。もちろん熱中症対策はしっかりと行う必要があります。ただ夏を避けて涼しくなるのを待っていたら、走れるようになることには春になってしまいます。そうなると気温が上がってタイムが出にくくなります。
走れる体ができていないのに、ポイント練習をしてケガをするというケースも多々あります。繰り返しになりますが、まず土台作りが大切です。ここに3〜4ヶ月かけてください。そして、準備が整ってからスピード練習を行います。この手順を間違ってはいけません。
■2020年は秋にオンラインマラソンを入れてみる
ここまでの説明からすると、秋マラソンに出場することに意味がないように思えるかもしれません。実際に秋マラソンでは記録を狙うは難しく、初心者から中級者レベルでは伸び代が大きいので自己ベスト更新も可能ですが、ベテランランナーになってくると秋に結果を出すのはかなり難しいのが現実です。
でも秋マラソンに意味がないわけではありません。実際に42.195kmを走ることで、どこまで土台がしっかりしているかがわかりますし、足りない部分も明確になります。何よりも大会慣れしておくことはレースで結果を出すためにはとても重要です。
そうは言っても2020年は大きなフルマラソンの大会がありません。ただ、いくつかオンラインマラソンが開催されるかと思いますので、そのようなランイベントを活用しましょう。
オンラインマラソンは1人で走ることになるため、最後まで走り切るのが難しいのですが、1人で42.195kmを走れれば自信にもなります。リタイアしたとしても、それが危機感にもつながるので、エントリーしておいて悪いことはひとつもありません。
10月 ハーフマラソン
11月 フルマラソン
このような感じで2回ほど挑戦して、冬マラソンに備えましょう。ただし、まだオンラインマラソンに関しては検討中というものが多いので、こまめに情報収集も行ってラン仲間で共有しましょう。仲間と一緒にエントリーすれば、負けられない気持ちも湧いてくるので完走しやすくなるというメリットもあります。
また小さな大会や記録会、練習会は再開される可能性もあります。LAWSON DO! SPORTS(https://do.l-tike.com)でも、小さな大会の情報も掲載しています。オンラインマラソンではがんばれそうにないという人は、たまにチェックをしておいてください。
■まとめ
マラソンは42.195kmを走るスポーツですが、実際にはスタートラインに立つまでの準備がすべてと言っても過言ではありません。レースでどれだけがんばっても、そこまでに十分な準備をしていないと結果が出ることはありません。
そういう意味では、漫然と走っているだけの人と、目標設定をしてトレーニングプランを組んでいる人とではレースでの結果が大きく変わります。目標とする大会が開催されるかどうか、まだ未定だとは思いますが、開催される前提で勝負レースを絞っておきましょう。
トレーニングで大事なのが土台作りで、まずは走れるだけの体を作る必要があります。3〜4ヶ月かけて体を作り、そのベースの上にスピードを出すためのトレーニングを積み重ねていきましょう。
負荷の高いトレーニングは、半年で52回しか行なえません。1回1回をムダにすることなく、目的意識をきちんと持って行ってください。
まずは夏の走り込みと筋トレから。気温が高くなる日が増えていきますが、熱中症対策をしっかり行って、涼しい時間帯にじっくりと距離を積み重ねていきましょう。また、いきなり完璧にこなそうとするのではなく、体に違和感があれば思い切って休みましょう。
先が見えない状況ですが、いずれ騒動は落ち着きます。そのときに走力が落ちていたなんてことのないように、黙々とトレーニングに励みましょう。