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マラソン

2020/2/27

“マラソン完走請負人” 牧野仁の指導法 後編『最も大事な最初の1kmを乗り切る秘訣』

“マラソン完走請負人”として多くのランナーに走りの心得を指導されてきた牧野仁さん。前編では走りの前にまずは“歩く”ことの大切さを教えてもらいました。後編の今回は初心者ランナーが初マラソンに臨むうえで必要な準備のトレーニングと、レース本番で意識するべきポイントなどを伺いました。

<“完走請負人”が語る3ヶ月で目指すフルマラソン>

――この後編では、より実践に近い話をお伺いできればと思います。前編で触れたように、牧野さんの教室では自分の歩幅を知るところから始めたり、靴の選び方や履き方までレクチャーするなど本当に細かいところまで指導されています。そんな牧野さんが考えるフルマラソン完走3ヶ月プランというのを教えていただけたらなと思っています。

牧野:とにかく、まずはベースの体力をつけることが先決です。例えば、まず10km走れるようになりたいのであれば、普段から1~2kmは歩いていないといけません。歩くという基礎がなければ走ろうと思っても走れないし、怪我につながる。ベースを作り、徐々に積み上げることでしか結果は出ません。

 そういった前提をもって3ヶ月プランを考えてみましょう。まず初心者ランナーが考えなければならない大きな壁が制限時間です。それが6時間か7時間かでは雲泥の差になります。

――そうなると、やはり初心者ランナーは制限時間の長いレースからチャレンジするべきですか?

牧野:大会の人数にもよりますが、ローカルの大会だと制限時間が6時間のところが多くて初心者には少し厳しいでしょうね。例えば、京都マラソンは制限時間が6時間です。20~30分は余裕を見たとしても5時間半で走れるペースが必要になります。そこそこ走れるランナーでないと厳しいですね。

 ところが制限時間が7時間のレースだと6時間半が一つの目安となり、それなら途中で歩いたとしても完走を目指すことができます。具体的には1kmを8分~8分半で走ることができれば、歩きや休憩を挟んでも完走圏内になります。

――歩いても完走を目指せると聞くと、精神的にも余裕が生まれますね。

牧野:そうなんです。一方、制限時間6時間のレースで完走を目指すのであれば、最低でも20kmは走れる体力を3ヶ月前、ギリギリでも2週間前までにつけていないと厳しいです。いずれにしても、理想としては体力のピークを本番の2週間前に持ってくることです。

――そのくらいの体力をつけるとなると、日々の練習量はずいぶんと多くなりそうな気がしてきます。

牧野:社会人であれば、練習の時間が取れるのはせいぜい週2回ほど。大会の3ヶ月前に5kmしか走れなかったとすれば、1週間に1.2倍ずつくらいのペースで向上させていくようなプランを考えます。そうすれば2週間前には、20~25kmを走りきれる体力が備わっている状態を目指すことができるんです。完走となると、そうやって人それぞれに合った戦略を立てて調整していく必要があります。

――制限時間の話がありましたが、少しでも速い記録(タイム)は意識させるものなのですか?

牧野:タイムは関係ないと思っています。走り切る上で最も大事なのは最初の1kmをどう乗り切るか。スタート直後に“ペースを落とすこと”が鍵だと考えています。例えば、ホノルルマラソンに出場する初心者ランナーには「最初の500mくらいで一度沿道に上がってください」と伝えています。どうしてもスタート直後は興奮していて、スピードを出しすぎてしまいます。気温も高いので、一度体温を下げて冷静になってもらうんです。最初の給水所は5km地点なので、そこに焦って取りに行くようであれば完全にオーバースピード。最初の1kmとそれからの2~3kmでレースの結果が決まるといっても過言ではないです。

――やはり焦りは失敗に繋がってしまうということですね。

牧野:初心者に関しては焦ってもしょうがないので、一番後ろからいきましょうと教えています。そのほうが気持ちも楽になります。マラソンでは特にスタート直後は集団が固まっていて前が見えないので、前の様子を見ようとするとつま先立ちになってしまいます。つま先立ちで走るなんてことは普段はあり得ないので、それでふくらはぎを痛めしまう人もいるくらいです。

――マラソンでは事前に知識があるかないかで、走り方にも大きく影響するということがよくわかります。

牧野:他にも気をつけなければいけないことはあります。例えば、レース毎に設置されている関門の制限時間も注意が必要です。どこが(制限時間が)緩くなるのか、どこが一番体力的にきつくなるかなどを事前に把握しておけるかどうかは重要なポイントになります。

 大都市マラソンでは、後半の関門は緩くなる傾向にあります。東京マラソンでいうと、スタートからは比較的ゆっくりでそこからどんどんとタイトになっていきますが、逆に終盤の34km過ぎにある札の辻の関門を過ぎればそこからは1km11分のペースでも間に合う計算になる。「あの関門を過ぎればあとは歩いても大丈夫」。そうやって予め計算しておきます。

<習慣的に水分をとれていない>

――さきほど、「最初の給水所に焦って取りに行くようであれば完全にオーバースピード」という話もありましたが、走る際の水分補強についてもお伺いしたいと思います。夏場などは特に命の危険にも関わる大事なポイントです。

牧野:私が見ている限りでも、水分のとり方があまり良くないランナーは多いです。自転車競技ではハンガーノック(極度の低血糖状態になり、体が動かなくなる症状)などの危険に対して意識を高く持っているランナーが多いのですが、そもそも水分を取るという意識が欠けていることが多いんです。最近では走る際にボトルを持つ人は増えてきたように感じますが、それでもまだまだ習慣的に水分を取れていないし、適切な水分のとり方はわかっていないと思います。

――のどが渇いたと感じてからでは遅いという話も聞きますよね。そういったことがまだ浸透していないのですか?

牧野:そう感じています。意外に知られていないですが、唇が乾いている人はその時点で体の水分が足りていないんです。水分は口からも出ていますから、夏の暑い日だけではなく冬場は特に脱水気味なんですよ。だからこそ、私は水を飲ませることはかなり啓蒙してきました。

 海外では日本よりも水を取るのが当たり前という土壌のもとでやっているところがほとんどなのでしょうね。先日、英会話のテレビ番組を見ていた時にロンドンでジョギングをしているシーンがありました。そこでは走り終わった人が水を買う場面が出てきたんです。走る時には水を飲む。それが日常的なシチュエーションとして出てくるくらい当たり前のことなんだなと、意識の差を実感しました。

――走り終わって家に帰ってから飲めばいいと、そのくらいに軽く考えている人は確かに多いのかもしれないですね。

牧野:そもそも、水分をとらないと体の代謝は上がらないですからね。体力を多く使うマラソンは、極端にいえば点滴を打ちながら走りたいくらいのもの。水分は体から常に放出されているので、徐々に取り入れていかなければ間に合わないので、水分補給はしっかりとしてもらいたいです。

――本日は貴重なお話ありがとうございました。最後に“マラソン完走請負人”の牧野さんがマラソンを通じて伝えたいメッセージがあればお願いします。

牧野:アクティブに動くようになると、人は体も気持ちも変わってきます。ウォーキングでもテニスでもフットサルでも種目は何でもいいので、まずは外に出て運動をしてほしいです。ゴール地点は人それぞれで、グループでやるなら駅伝になるかもしれないし、個人で自転車競技を突き詰めていくかもしれない。とにもかくにも、まずは外に出る習慣をつけて、行動してもらえたら嬉しいです。そして、マラソンやランニングがその一つのきっかけになってくれたらいいなと思います。

インタビュー取材 池田鉄平
文章・写真 石川遼

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