筆者プロフィール
重松貴志(しげまつたかし)
1975年生まれ。フリーライターとしてランニングやマラソン大会の情報発信を手掛けつつ、2020年からランニングのトレーナーを開始。
北京で開催されている万里の長城マラソンの日本事務局代表であり、裸足ランナーとして裸足でフルマラソンを25回以上完走という実績を持つ。
「自由に走る」をテーマに、常識にとらわれないランニングの楽しみ方を提案している。
全国各地のマラソン大会が、中止やオンライン開催を決めていますが、湘南国際マラソンやかすみがうらマラソンのように開催を目指して動き出している大会もあります。他のマラソン大会が開催される試金石になりますので、なんとか開催してもらいたいところです。
とはいえ開催されることになり、無事エントリーできたとしても、自分がベストコンディションでないとレースではいい結果を残すことはできません。そこで今回は、最高の状態でレースに挑むために、マラソン大会直前にできることについてお伝えしていきます。
■1ヶ月前から無理のない範囲で体重を落とす
出場するマラソン大会の1ヶ月前から、減量を意識した食事に切り替えましょう。マラソンにおいて体重は完走タイムに大きな影響を与え、一般的に体重1kg落とすことで、フルマラソンのタイムが3〜4分程度縮まると言われています。
もし体重を3kg落とすことができれば、フルマラソンの完走タイムが10分近く縮まりますので、ムダな脂肪は落としてしまいたいところです。ただし、急激な減量は身体に負担がかかりすぎますので、1ヶ月ほどかけて現在の体重を2〜3%落としましょう。
体重が60kgなら1.2〜1.8kgが目安になります。もちろん普段から節制して痩せている人は、そこまで落とす必要はありません。BMIが22以上あるなら、1ヶ月の減量で少しでも身体を軽くしておきましょう。
「体脂肪率が下がると免疫力が低下する」と言う人もいますが、それを裏付ける調査結果はありません。体脂肪と免疫力には関係がなく、実際には体脂肪が落ちるほどの高負荷トレーニングが免疫力低下の原因とされています。
ロング走やインターバルなどのポイント練習をしたあとに、しっかりとケアをしておけば体調を崩す心配はありませんので、安心して減量してください。ただし「無理のない範囲で」というのが重要です。食事を抜くといった無理な減量は、コンディションを落とす要因になります。
・間食をしない
・ジュースではなくお茶を選ぶ
・食物繊維を多めに摂取する
・トレーニングにHIIT(High Intensity Interval Training)を取り入れる
具体的にはこれらの方法がおすすめです。まずは間食をしないこと。そして砂糖を減らして食物繊維を増やしましょう。そのうえでHIITとして「20秒ダッシュ+10秒ジョグ」を8セット行えば、体重は自然と落ちていきます。
ちなみに糖質制限ダイエットはNGです。ランナーにとって糖質はエネルギーですので、きちんと摂取しておく必要があります。糖質制限は短期間で一気に体重を落とせますが、体力も一緒に削られてしまいますので、きちんと炭水化物を摂取しましょう。
■2週間前からトレーニングの負荷を減らす
ポイント練習をしてもいいのは2週間前までです。大会2週間前になったら、ジョグ中心のトレーニングに切り替えて、疲労が残らないように気を付けてください。もし、少しでも疲労を感じるようであれば走るのをお休みしても構いません。
ただ、コンディション低下を恐れてトレーニングをゼロにすると、今度は走力が低下します。疲労が溜まらない範囲で継続して走っておきましょう。ただ「疲労が溜まらない範囲」の設定が難しく、ほとんどの人がこの時期に走り込み過ぎてしまいます。
マラソン経験の浅い人ほどその傾向が強く、結果的にマラソン大会当日に身体が重たくて思うように走れないなんてことが起きます。きちんとトレーニングを積み重ねてきたのであれば、2週間前からは1日30分のジョグだけで十分です。
走りたい気持ちをいかにしてコントロールするかが大切です。30分だけの練習で物足りないかと思いますが、読書や映画鑑賞など自分がリラックスできる方法で、筋肉をしっかりと休ませてあげましょう。
■早寝早起きで生活リズムを安定させる
大会直前になってきたら、トレーニングを減らすだけでなく、早寝早起きを定着させましょう。近場で開催されるマラソン大会なら、大会当日の朝はのんびりできますが、ほとんどの人が通常よりも早起きして会場に向かうことになります。
大会当日だけ早起きしなくてはいけないとなると、前夜の寝付きが悪かったり、起きなくてはいけないというプレッシャーで眠りが浅くなったりします。それを避けるために、1ヶ月前からマラソン大会当日と同じ起床時間になるように生活リズムを変更しましょう。
大会当日が5時半起床になるなら、1ヶ月前から5時半起床にします。もちろん早起きだけでは睡眠不足になりますので、早めに寝るように心掛けましょう。できることなら睡眠時間は7〜8時間確保してください。
・休日も同じ時間に寝て同じ時間に起きる
・朝起きて5〜10分散歩する
・夕食はどか食いしない
・就寝時間の2時間前からパソコンやスマホの画面を見ない
ベストコンディションを作り出すために、この4点を意識してください。
まず大事なのが寝る時間も起きる時間も一定にすることです。休前日に夜ふかしをしたり、休日に遅くまで寝たりするというのは体内時計がズレる要因になります。また太陽の光を浴びることで体内時計はリセットされますので、朝起きたら5〜10分程度散歩しましょう。
1日の食事の中心が夕食だという人は、夕食の量を減らして朝食にしっかり食べるようにしましょう。実は食事の量も体内時計に影響します。夕食が多いと体内時計が乱れやすく、なおかつ太りやすい傾向にあります。
また夕食は朝食から12時間以内に食べることで、睡眠の質が上がるという調査結果もあります。夕食から朝食まで12時間開くことで、お腹周りの脂肪も燃焼しやすくなり、減量効果も期待できます。朝食が7時なら夕食は19時までに済ませておきましょう。
よく言われていることですが、睡眠前のパソコンやスマホはNGです。ブルーライトが体内時計を乱れさせ、脳を活性化させるので眠りが浅くなります。就寝時間の2時間前からはパソコンもスマホも触れないように心掛けましょう。
■レース前日は散歩か30分以内のジョグでOK
せっかく1ヶ月かけてコンディションづくりをしてきたのに、マラソン大会前日の過ごし方を間違えると、すべてがムダになってしまいます。どんなランナーでも大会前日になると、思い通りに走れるかどうか不安になりますが、この不安に負けて走りに行ってしまう人がいます。
前日に10km、20kmと走ってしまうと、間違いなく疲労が溜まって、レース当日にベストな走りができません。基本的には前日は完全休養で構いません。軽く散歩をするか、どうしても走りたいのであれば30分以内のジョグにしておきましょう。
観光も兼ねて遠征している場合には、前日に歩きすぎることもあるので気をつけましょう。レース前日の観光はできるだけバスやタクシーを使って、自分の足を消耗しないように心掛けましょう。もったいないと思うかもしれませんが、ホテルでくつろいで過ごすのがベストです。
トレーナーによっては、前日に1kmを速いスピードで走るのを推奨しているケースもあります。サブ3を狙うくらいの走力があるならこれもOKですが、フルマラソンで4時間以上かかるという人にはそれほど意味はありません。それをするくらいなら体力を温存しておきましょう。
どうしても身体を動かしたいのであれば、軽めのストレッチで身体をほぐしておきましょう。1日前にストレッチをしたくらいで何かが変わることはありませんが、身体を動かしておけば、走りたい気持ちを抑えられます。
ただし、普段からストレッチをしていない人がストレッチをすると、筋肉を傷めてしまう可能性があります。同じくマッサージも普段から行っていないのであれば、やらないのが正解です。じっとしているのが耐えられないかもしれませんが、いつもと違うことはしないを基本スタンスとしてください。
■カーボローディングよりも食べ慣れたものを選ぼう
マラソン直前の食事といえば、カーボローディングを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。かつては7日前から炭水化物の摂取量を減らし、3日前から炭水化物を多く摂るという手法が主流でしたが、現在は7日前から運動量を減らし(炭水化物量は通常通り)、3日前から炭水化物を増やす方法が採用されています。
そうすることで、体内のグリコーゲン貯蔵量を通常よりも増やすことができ、レース中のエネルギー不足を回避できます。ただし、カーボローディングで恩恵を受けられるのはフルマラソンのエイドで給食を摂らない選手だけです。
サブ3を狙うのであれば、レース中に給食を摂ることもなく走り切ることになるので、カーボローディングを行うメリットがあります。ところが、エイドで給食を摂るのであればカーボローディングをしてエネルギーを溜め込む必要はありません。
カーボローディングはエネルギーと同時に水分も溜め込むため、体重が増えてしまうというデメリットがあります。せっかく1ヶ月もかけて体重を落としたのにカーボローディングで増やしてしまったのでは意味がありませんよね。
また、食べ慣れないものを選ぶと必要以上にプレッシャーがかかってしまします。特別な食事をするのではなく、いつもと同じものを選びましょう。完走に必要なエネルギーは、エイドもしくは手持ちのジェルなどで補ってください。
■まとめ
マラソン大会の多くが中止もしくはオンライン開催になってしまいましたが、いくつかの大会は開催を前提で動いており、湘南国際マラソンのようにすでにエントリーを始めた大会もあります。とはいえ開催される大会の数は少なく、1回のレースで結果を出すためのコンディションづくりが大切になります。
・1ヶ月で体重を2〜3%落とす
・ポイント練習は2週間前まで
・睡眠の質を高めて早寝早起きを習慣づける
・大会前日は30分以内のジョグで切り上げる
・カーボローディングよりも食べ慣れたものを選ぶ
これらを意識することでコンディションが高まり、これまで以上の結果が期待できます。あとは42.195kmを楽しむだけ。ただし、コンディションが良すぎるとスタート直後にハイペースになりやすいので、その点だけは注意しましょう。
マラソンは準備のスポーツです。いい練習をし、コンディションを高めてスタートラインに立つ。号砲が鳴れば、あとは体の声を聞きながら、無理なく1歩を積み重ねていくだけです。十分な準備ができていれば、結果は自然と付いてきます。
しばらくは、フルマラソンを走れる機会が限られてしまいますので、1回のレースを大切にしましょう。それこそプロランナーになったくらいの気持ちでコンディションを整えて、過去の自分を超えていきましょう。