筆者プロフィール
重松貴志(しげまつたかし)
1975年生まれ。フリーライターとしてランニングやマラソン大会の情報発信を手掛けつつ、2020年からランニングのトレーナーを開始。
北京で開催されている万里の長城マラソンの日本事務局代表であり、裸足ランナーとして裸足でフルマラソンを25回以上完走という実績を持つ。
「自由に走る」をテーマに、常識にとらわれないランニングの楽しみ方を提案している。
気象庁の予報に寄ると、今年の夏も暑くなるとのこと。毎年のこととはいえ、夏の暑さはランナーにとって悩ましい問題のひとつですよね。夏はしっかりと走り込みたいけど、暑さのせいで1時間も走れない。そういうときは避暑地を活用するのがおすすめです。
2020年は新型コロナウイルスの影響で、他県への移動が難しいような状況ですが意外と近場にも走りやすい避暑地があったりします。そういう場所なら夏休みのプチ合宿などにも使えますよね。そこでここでは、夏の暑さを避けて行う避暑地でのプチ合宿情報をご紹介します。
■標高が100m上がると気温が0.65℃下がる
夏に登山をした経験のある人なら実感しているかと思いますが、登り始めは暑く感じても山頂付近になると爽やかな空気で気持ちよく感じますよね。それは空気がきれいだからという理由だけではなく、高度が上がったことで気温が下がっていることが影響しています。
気温:標高が100m上がると0.65℃下がる
小学校で習ったのを覚えている人もいるかもしれませんが、一般的に標高が100m上がると気温は0.65℃下がります。
高いところのほうが太陽に近いから、気温が上がるはずなのに不思議に感じるかもしれませんが、地表近くでは温められる面積が広い平地では気温が上がり、標高の高い山間部は温められる面積が少なく気温が低くなります。
また、北半球では北に100km移動すると気温が1℃下がると言われています。最近は北海道でも猛暑日になることもあるので、必ず涼しくなるわけではありませんが、基本的には標高と緯度が高い場所ほど気温が下がり走りやすい環境になります。
例えば駅伝で有名な箱根の峠は、標高が846mあります。標高が100m上がると0.65℃気温が下がるのであれば、平野部よりも約5.5℃も気温が低い計算になります。平野部で33℃だったとしても、箱根峠では27.5℃ですのでかなり涼しいですよね。
国内にある避暑地はこのように、標高が高い場所に多く涼しい環境で走ることができます。実際に箱根駅伝出場を狙う大学は、そういう避暑地で合宿を行うこともあります。
■ランニングに適した国内の避暑地を選ぶコツ
単純に涼しくて走りやすい場所を選ぶというだけなら、富良野や軽井沢、那須高原などが宿泊施設も多くておすすめです。ただ、2020年は都市部から避暑地への移動は、どれくらい歓迎されているのかわからないので避けたいという人もいますよね。
そうなってくると、できるだけ近場で涼しい場所を探したいところです。幸い日本は山地が多く、標高が高い場所というのは意外と近くにあったりします。
・標高が800m以上ある
・交通量が多くない
・アクセスしやすい
・温泉施設や飲食店が近くにある
身近なところでこのような条件の場所を探してみましょう。標高が800m以上あれば、気温が5℃は低くなります。もちろん必ず800m以上でなくても構いません。北に移動すればそれだけ気温も低くなりますので、走りやすい環境になります。気温が20〜25℃くらいであればOKです。
避暑地は都市部とは違って、道路に歩道がないことが多く、交通量が多いと安全に走ることができません。できるだけ交通量が少ない場所がおすすめです。そういう意味では、ランニングコースやサイクリングロードの整った公園などあればベストです。
交通量が少ないということは人も少ないので、あまり周りの目が気にならなくなるというメリットもあります。避暑地でも都市部からやってきたことに敏感に反応する人もいて、ちょっと気まずい雰囲気になることもありますが、そこで暮らしている人が少なければ、伸び伸びと走れます。
ただし、そういう場所はアクセスしづらいという問題もあります。限られた休みを利用してプチ合宿をするわけですから、移動時間はできるだけ短くしたいところです。
いくらランニングのためのプチ合宿でも、四六時中走っているわけではありません。練習時間よりも休憩時間のほうが長いわけですから、他に楽しみがある場所が理想です。できれば温泉施設や飲食店がそれなりに充実している場所が理想です。
地域ごとにそのようなプチ合宿に適した場所がありますので、身近なところで涼しい場所がないか情報収集してみましょう。インターネット検索で「◯◯(地域名)涼しい場所」と入力すると、避暑地情報が出てくるので、参考にしてください。
■避暑地なら涼しい以外にもメリットがある
避暑地のような涼しい場所をおすすめしているのには「涼しい」以外にもメリットがあるためです。どのようなメリットがあるのか見ていきましょう
●高地トレーニングになるので練習時間が短くて済む
避暑地の多くが標高の高い場所にあるため、そのような場所でランニングを行うと高地トレーニングの効果が得られます。高地は酸素が薄いため、血中酸素濃度が下がってしまいます。体はそれに順応しようとして赤血球やヘモグロビンを増やして、より多くの酸素を運べるようになります。
酸素をたくさん運べるようになると、平地に戻ったときにこれまで以上に高い負荷をかけても疲れにくくなるので、高地トレーニング後にマラソンに出場すると記録が伸びるとされています。
ただ、このような高地トレーニング効果を得るには2週間前後の期間が必要なので、市民ランナーが2〜3日のプチ合宿をしてもその効果を感じることはありません。また、高地トレーニング効果も永遠に続くわけではないので、ここではその効果は忘れてください。
それでも標高が高く酸素が薄い場所でトレーニングすることが、無意味というわけではありません。酸素が薄い場所で走るということは、それだけで体に高い負荷を与えています。ということは、平地でトレーニングを行うよりも練習時間を短くできます。
練習時間が短くて済むなら、オーバートレーニングにもなりにくく、ケガのリスクも下がります。涼しいのでフォームが崩れにくいのも、やはりケガを防ぐ効果があります。もちろん涼しいからといって追い込みすぎるとケガになりますので、無理のない練習メニューを組みましょう。
●何もないから練習と休養に集中できる
気持ちが強い人なら、わざわざプチ合宿なんてしなくても、自分で決めたトレーニングを自宅でコツコツ行うことができますが、そんな人ばかりではありませんよね。家にいるとどうしても誘惑が多くて、気がついたら練習時間が過ぎていたなんてこともあります。
ところがプチ合宿をするような場所には誘惑がほとんどありません。走るか食事をするか休憩をするかしか選択肢がありませんので、走ることに集中できます。しっかりと休養も入れることができるので午前中と午後の二部練もできます。なんだか実業団の選手みたいですよね。
1日目 午前:移動 午後:60〜90分ジョグ
2日目 午前:ポイント練習 午後:30〜60分ジョグ
3日目 午前中:ロング走 午後:移動
3日間でこんな充実したメニューを組むこともできます。最初からメニューを組んでおけば、他にすることがないので選択肢は走るしかありません。自宅で同じことをするのが難しくても、避暑地でのプチ合宿なら、むしろ楽しんで走ることができます。
練習時間はロング走でも2〜4時間程度で終わりますし、ポイント練習なら1時間ちょっとしかかかりません。次の練習まですることもないので、寝たり読書したりとのんびり過ごせるのも合宿をするメリットになります。自宅だとすることが多くて、ついつい動いて疲労回復が遅れますが、合宿ならきちんと休んでから次のトレーニングをできます。
また、ラン仲間と一緒なら刺激も受けますので、できれば1人ではなく誰かを誘うのが理想です。ただし、今年はこういう時期なのでラン仲間を誘うにしても、大人数にならないように気をつけてください。
■低酸素ルームを使って集中トレーニングという選択肢
プチ合宿にメリットがあるとわかっていても、やはり宿泊をともなう遠征は気が引けるという人もいるかと思います。そういう人におすすめなのが低酸素トレーニングです。
低酸素トレーニングをするのには高地に行かなくてはいけないのでは?と思うかもしれませんが、実は最近いたるところに低酸素ルームを用意したトレーニングジムができています。例えば、アシックスが東京の豊洲に日本最大級の低酸素トレーニングジムをオープンしています。
他にも全国にこのような低酸素ルームを持ったトレーニングジムができており、高地トレーニングを行うのと同じ環境でトレーニングを行えます。しかも、そのようなトレーニングジムには高地トレーニングのプロフェッショナルが常駐していますので、安全に高負荷なトレーニングを行えます。
もちろん室内ですのでエアコンが完備されており、熱中症リスクもありません。しかも非日常体験ができるので、プチ合宿と同じように新鮮な気分でトレーニングを行えます。
でもそういう低酸素トレーニングは高いのでは?と思うかもしれません。実際にアシックスの低酸素トレーニングジムはビジター利用ですと1回に11,000円もかかります。でも、都内在住であればプチ合宿のように交通費がそれほどかかりませんし、宿泊費もかかりません。
思い切って1ヶ月だけ月会員になるという選択肢もあります。どの施設を利用するかにもよりますが、1ヶ月使い放題で3万〜4万円くらいで利用できますので、プチ合宿の予算を考えれば無理のない金額ですよね。しかも夏休みが過ぎても利用できるため、最高の環境で夏の走り込みができてしまいます。
せっかくの夏休みにしっかりと練習をしたいというのであれば、このような選択肢があることも覚えておくといいでしょう。
■まとめ
夏にどれだけ走り込めるかでマラソンシーズンの結果が変わります。大きな大会は軒並み中止になっていますが、小さな大会がいくつか開催を表明していますので、練習の成果を試すことができる環境が徐々に戻りつつあります。
だとすれば、この夏も例年と変わらずしっかりと走り込みをしたいところです。それでも夏の暑さを考えると夏休みに自宅でコツコツ走り込むのは難しく、他の誘惑にも負けてしまいがちです。可能であれば近場の避暑地で2泊3日にくらいのプチ合宿を行ってみましょう。
移動時間を考えても2泊3日で、4回もトレーニングするチャンスがあります。それも他にすることがないので休養も十分に確保でき、最高の環境でランニングを楽しめます。1200m以上の高地であれば負荷も高くでき、短い練習時間で高い効果も得られます。
それでも、やはり宿泊は難しいという人は、低酸素トレーニングジムを活用してみましょう。全国に低酸素トレーニングジムが増えており、エアコンが効いた低酸素空間で、効率のいいトレーニングを行えます。
低酸素トレーニングはすでにトップランナーだけのものではなく、市民ランナーにも身近なものになりつつありますので、こういう状況だからこそ上手に活用して、夏の走り込みに活用してみましょう。