筆者プロフィール
重松貴志(しげまつたかし)
1975年生まれ。フリーライターとしてランニングやマラソン大会の情報発信を手掛けつつ、2020年からランニングのトレーナーを開始。
北京で開催されている万里の長城マラソンの日本事務局代表であり、裸足ランナーとして裸足でフルマラソンを25回以上完走という実績を持つ。
「自由に走る」をテーマに、常識にとらわれないランニングの楽しみ方を提案している。
ランナーにとって厳しい季節がやってきました。おそらく今年も最高気温が35℃を超えるような猛暑日に悩まされる日もあるはずです。走らない人からすれば、そんな日は走らなければいいのにと思うのでしょうが、ランナーは1日だって休みたくないですよね。
だとすれば、きちんと熱中症対策はしておきたいところです。それだけでなく、夏場のランニングで気をつけなくてはいけないポイントがいくつもあります。そこで、ここでは夏のランニングを安全に行うために、どのような点に気をつけなくてはいけないのかを、詳しくご紹介していきます。
■10時から17時までは走らないと決める
夏場のランニングで重要なのは「熱い時間に走らない」ということです。そんなことわかっていると思うかもしれませんが、真夏の日中に走っている人も多く、暑さに耐えることで成長できると思いこんでいる人も少なくありません。
もしマラソン大会が夏場にあるのなら、暑さに耐えて暑さに慣れることも必要ですが、マラソン大会が行われるのは秋から春にかけてで、最高気温が30℃を超えるような日は、めったにありません。仮にそういうコンディションで走っても記録を狙うのは無理です。
特殊な条件のマラソン大会に出るのでなければ、暑さに強いランナーになるメリットはひとつもありません。夏場に走るなら早朝か夕方以降の涼しい時間帯を狙いましょう。おすすめは最も涼しい時間帯である午前5時台のランニングです。
午前中は遅くとも10時には切り上げて、夕方は日が傾いた17時以降から走るようにしてください。「10〜17時はランニング禁止」というマイルールを作ってしまいましょう。
ランニングの時間もできるだけ短くしましょう。坂道でランニングをすれば効率的に鍛えられますので、いつもよりも短い時間で切り上げることができます。HIITのように短い時間で負荷を一気に高めるトレーニングもおすすめです。
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●坂道トレーニングのポイント
坂道でのトレーニング方法はいくつもありますが、夏場におすすめなのが100mのインターバルです。上りの100mを最大心拍数の80〜90%程度で駆け上がり、息を整えながらジョグでスタート地点に戻ってきましょう。これを5〜10本行いましょう。
心肺機能だけでなく、筋力アップにもつながります。ただし、負荷がかなり高いので違和感があったらすぐにやめてください。また汗の量もかなり多くなりますので、こまめにスポーツドリンクで給水することも忘れないようにしましょう。
また負荷が高いので、坂道トレーニングは1週間に1回までにしておきましょう。
●HIITのポイント
HIITは高強度インターバルトレーニングのことで、こちらも方法はいくつもありますが、夏場のように暑い時期は短時間で終わらせるのがポイントです。20秒の全速力と10秒のジョグを1セットとして、8セット行いましょう。30秒の8セットなので4分で終わります。
タバタ式と呼ばれる方式で、最大心拍数近くにまで追い込むのがポイントです。かなり苦しいトレーニングになりますが、短時間で効率よく心肺機能を高められます。
ただし、かなりの高負荷ですのできちんとしたアップとダウンが必要です。5km程度を走って体を十分に温めてから行いましょう。また、2〜3km程度のダウンも忘れないでください。8セット目が終わっても座り込まずに、動き続けることが重要です。
こちらは高負荷ですが、短時間で終わるので週に1〜2回程度行ってもかまいません。ただし続けて行わず、必ず中2日あけてください。
■紫外線対策をして日焼けによる消耗を避ける
涼しい時間に走るとはいえ、太陽が出ていれば紫外線で日焼けします。日焼けをすると健康的と思うかもしれませんが、ランナーにとって日焼けをするメリットはまったくありません。あえて言うなら「健康的に見られる」くらいのことで、実際には不健康なことをしています。
日焼けは肌の火傷ですので回復するのにエネルギーを使います。本来は筋肉や心肺の回復に使うべきエネルギーを日焼けからの回復に使うわけですから、疲労が抜けにくくなります。さらに目に紫外線が入ることで疲労感が高まり、目の病気にかかるリスクも高まります。
・日焼け止めを使う
・サングラスを着用する
この2つだけは守るようにしてください。これをするだけで10年後の健康度が大きく変わってきます。それぞれのポイントを解説していきます。
●日焼け止めを使う
太陽が顔を出している時間に走るのであれば、涼しい時間帯であっても日焼け止めを塗りましょう。日本人は皮膚がんになるリスクは欧米人と比べると低く、日焼けしても大丈夫だと思っている人もいるようですが、皮膚がんにならないにしても、紫外線はランナーにとって有害です。
回復が遅れるということは、負荷の高い練習の周期を遅らせなくてはいけません。ライバルが3日に1回のポイント練習をしているのに、自分は回復が遅れて4日に1回ペースになる。そうするとライバルとの差がどんどん広がっていきます。自分のために日焼け止めを使いましょう。
塗るのが面倒だという人は「飲む日焼け止め」でもかまいません。日本ではまだそれほど認知度がありませんが、欧米では「飲む日焼け止め」はすでに一般的です。もしくは長袖シャツを着るというのでもかまいません。意識的に肌を守りましょう。
●サングラスを着用する
紫外線が悪さをするのは肌だけではありません。眼にも悪い影響を与えますので、必ずサングラスを着用して走りましょう。何もせずに走ると角膜炎や翼状片、白内障などのリスクが高まります。サングラスを着用するだけでこれらの発症を抑えられますので、使わない理由がありません。
サングラスを選ぶときには、紫外線カット率が99.9%以上もしくは紫外線透過率0.1%以下のものを選びましょう。涼しい時間帯に走るなら、レンズの色はあまり黒すぎないものがおすすめです。レンズの色と紫外線透過率は関係ありませんので、よく見える色のサングラスを選んでください。
■脱水症状にならないようにこまめな水分補給を心がける
今さらお伝えする必要もないかと思いますが、夏場のランニングでは必ず水分補給を行ってください。それもかなりこまめに行いましょう。走り出す前に体重を計測し、その後にコップ1杯分の水分を補給して走り出しましょう。
ランニング中もできれば1kmで1口ずつ飲むのが理想です。それが難しい場合でも、こまめな給水タイムを設けてください。走り終わったときに体重が減っていないことが理想です。とはいえ、夏場で体重が減らないほど練習途中に水分補給をするのは難しいので、走り終えてから補給しましょう。
失った水分の80%をスポーツドリンクか経口補水液で補ってください。走り出す前の体重が60kgで、戻ってきたときの体重が59kgなら1kgの水分が失われていますので、その80%である0.8リットル分の水分を補給します。
スポーツドリンクは甘いから苦手という人もいますが、甘さの原因である糖があるから水分を体に留めることができます。スポーツドリンクが甘いのにはきちんとした理由があり、スポーツドリンクは失った水分を補給するのに合理的に作られています。ミネラルもしっかりと補給できますので、練習後にはスポーツドリンクを飲むようにしましょう。
もし下記のような症状が出ていたら脱水症の可能性があります。
・めまい
・頭痛
・嘔吐
・下痢
・痙攣
この場合には、できるだけ速やかに水分を体内に入れる必要があるので、スポーツドリンクではなく経口補水液を使いましょう。もしものときに備えて、自宅に経口補水液のペットボトルを2〜3本用意しておくと安心です。
ちなみに練習後のアルコールは、利尿作用によって脱水症を引き起こす可能性があります。ビール程度の度数であればビールの水分と利尿作用で抜ける水分がほぼ同等ですので、脱水症になることはほとんどありませんが、水分補給にもなっていません。
まずはスポーツドリンクで失っただけの水分を補給して、落ち着いてからお酒を飲むように心がけましょう。
■栄養価の高い食事と十分な睡眠で回復させる
夏場のランニングは他の季節のランニングと違って、体への負担が大きいという特長があります。たくさんの汗をかきますので体からミネラルが抜けますし、鉄分も不足しがちです。多少なりとも日焼けもしますし、体温が上昇して内臓の負担も大きくなります。
この時期のランニングは徹底して疲労回復に努めましょう。とはいえするべきことはそれほど多くありません。
・しっかり眠る
・しっかり食べる
夏場に心がけるのはこれだけです。十分な睡眠時間を確保して、栄養価の高い食事を食べれば、夏場でも体はしっかりと回復してくれます。ただ、それぞれにポイントがありますので、回復を意識した睡眠と食事について詳しく説明していきます。
●回復を意識した睡眠のポイント
夏場は室温も高く寝苦しい夜になることがよくあります。こういうときに「エアコンが苦手だから」という理由で室温が高い状態で寝ている人もいますが、これでは十分な回復は望めません。室温は28℃以下にまでしっかりと下げておきましょう。
湿度が高い場合も睡眠の質が下がりますので、湿度は60%以下になるように除湿してください。その他に下記を意識した生活に切り替えてください。
・夕食は就寝の3時間前までに済ませる
・入浴は就寝の1時間前までに済ませる
・就寝の1時間前からはパソコンやテレビ、スマホを見ない
これだけ心がけるだけで、睡眠の質が変わります。すべてをいきなり変えることはできないかもしれませんが、できることから切り替えていきましょう。睡眠で回復できなければ、疲労が溜まっていくだけです。夏バテなどの原因にもなりますので、良質な睡眠を心がけましょう。
●回復を意識した食事のポイント
疲労回復を意識した食事でまず必要なのは体を作るタンパク質です。その他には下記の栄養素を意識的に摂取しましょう。
・ビタミンB1
・ビタミンB2
・カルシウム
・鉄
タンパク質とビタミンB1の摂取に最適なのが豚肉です。ビタミンB1は体脂肪やグリコーゲンをエネルギーに変換するときにも必要なエネルギーで、月間走行距離が長いランナーほど不足しがちですので、毎日走るならサプリメントも活用しましょう。
ビタミンB2は疲労物質を取り除いてくれ、カルシウムはメンタルの疲労を緩和します。鉄は血液の材料になります。血液が増えれば運べる酸素の量が増えますので、それだけ回復が早くなりますし、さらにはランニングでも息が上がりにくくなります。
最近は造血作用のあるアサイーが注目されています。アサイーは鉄分も多く含んでいますが、それ以上に飲むことで体が血液を作ることがわかっており、ランナーの疲労回復や走力向上が期待される食材です。ぜひ積極的に取り入れてください。
■まとめ
夏場のランニングは、他の季節に比べて気をつけなくてはいけないことがたくさんあります。それでも夏場の走り込みがマラソンシーズンの結果を大きく左右します。疲労を残さずに距離を伸ばしたり、高負荷なトレーニングをしたりすることで、マラソンシーズンで納得できるレースができるようになります。
2020-2021シーズンはマラソン大会の多くが中止を発表しており、レースというモチベーションがないかもしれませんが、逆に考えれば今だからいろいろと試すことができます。いつも以上に質の高いトレーニングを行う夏にして、どれくらい走力が上がるか試してみましょう。
そのためには、体に負荷のかかりすぎないトレーニング計画と熱中症対策を心がけてください。また睡眠や食事を徹底してこだわり、疲労回復につなげましょう。また、疲労が溜まりすぎていると感じたなら、思い切って休むことも大切です。
夏のがんばりは必ず成果になって現れますが、夏に溜め込んだ疲労はシーズンに入っても引きずります。いかにして疲労を溜めないかを常に考えながら無理のないトレーニングを行いましょう。