筆者プロフィール
重松貴志(しげまつたかし)
1975年生まれ。フリーライターとしてランニングやマラソン大会の情報発信を手掛けつつ、2020年からランニングのトレーナーを開始。
北京で開催されている万里の長城マラソンの日本事務局代表であり、裸足ランナーとして裸足でフルマラソンを25回以上完走という実績を持つ。
「自由に走る」をテーマに、常識にとらわれないランニングの楽しみ方を提案している。
梅雨のある6月はランナーにとって少し憂鬱な季節であり、練習量が減る季節でもあります。長い距離を走ろうと思っていた休日に限って雨予報。雨が降らなくても曇っていて、気分が乗りにくいですよね。
でもこの6月にきちんとトレーニングをすることで、暑い夏に距離を踏めるようになります。反対に6月に休んでしまうと、そのままゆるい感じで夏を迎えてしまい「この夏は走らなかったなぁ」となりがちです。
では雨の中どうやってトレーニングをすればいいのでしょう?
ランニング初級者ですと雨の日にどんな練習をしていいのかわからないと思いますので、ここでは梅雨時期に最適なトレーニングについてご紹介していきます。
■持久力の低下は気にせずに筋力をつける
まず梅雨時期に走れないというのは、仕方がないことだと受け入れてください。他のランナーも条件は同じです。自分だけが走れないわけではないと考えて、無理に雨の中を走ろうとしないでください。霧雨くらいならいいのですが、雨の中のランニングは体を冷やしますし、転倒のリスクもあります。
ここは潔く「走らない月間」として、ランニングをしないトレーニングスケジュールを組みましょう。1ヶ月くらい走れなくても走力がゼロになるわけではありません。むしろ、ここで走り込める体を作ることで、夏の走り込みに向けての下地を作れます。
この梅雨時期を「体を作るのに集中する」時期に設定してください。期間は梅雨明けするまで。
もちろんトレーニングスケジュール以外で走る分にはOKです。設定したトレーニングを終わらせた上で、晴れているから走りに行くというのは問題ありません。とはいえ、これからご紹介するトレーニングをしつつ走るというのは思ったよりも大変かもしれません。
■梅雨時期のトレーニングメニュー
梅雨時期の考え方を理解できたら、次は具体的なトレーニングメニューをご紹介します。
月曜日:縄跳び
火曜日:体幹トレーニング
水曜日:スクワット
木曜日:縄跳び
金曜日:体幹トレーニング
土曜日:スクワット
日曜日:縄跳び
トレーニングの基本は、体幹トレーニングとスクワットそして縄跳びになります。こんなに毎日できないという人は、縄跳びを減らしてください。
それぞれのトレーニング内容について詳しく解説していきます。
●体幹トレーニング
体幹トレーニングというのは、体幹を整えるためのトレーニングです。ピラティスが最適ですので、最初は少人数制のスタジオで教わるのがおすすめです。近くにスタジオがないという人や通う時間がないという人は、まずはYouTubeなどの動画を参考に行うのでもかまいません。
ただし男性の場合には、何も考えずに動画の動きの真似をすると、インナーマッスルではなくアウターマッスルを使ってしまい、体幹がまったく整っていないということがよくあります。できれば体幹トレーニングの書籍を購入するなどして、きちんと動きを理解したうえで行いましょう。
体幹トレーニングをするときに気をつけるのが、腹筋周りばかり鍛えないということです。日本人ランナーは腹筋が強く、背筋が弱い傾向にあります。パソコン作業が多く、自然と猫背の姿勢になってしまい。背中側の筋肉が衰えているためです。
腹筋だけでなく背筋側のインナーマッスルも鍛えましょう。むしろそちらを重点的に行うことでランニングフォームや歩き姿の改善にもつながります。
またランニングのスピードアップをしたいのであれば、大腰筋のトレーニングを行いましょう。大腰筋は体幹と脚をつなぐインナーマッスルで、膝を上げる動作をサポートします。ある研究では日本人ランナーとアフリカ人ランナーの大きな違いがこの大腰筋の発達にあると報告しています。
大腰筋を鍛えれば足を引き上げるスピードが上がり、自然とスピードが上がります。下記のトレーニングが効果的ですので、動画を調べて実践してみてください。
・レッグレイズ
・バイシクルクランチ
これらのトレーニングだけでなく、まんべんなくインナーマッスルに刺激を入れましょう。30分〜1時間程度のトレーニングを週2回行ってください。
●スクワット
ランニングのスピードは筋力と体重で決まります。ランニングフォームや持久力も影響しますが、どれだけスピードを出せるかという点では、この2つが大きく影響します。体重を落とすか、筋力をつけるかでベースになるスピードを上げることができます。
ただ、ある程度走っているランナーの場合、体重を落とすのも簡単ではありません。女性の場合には体重を落としすぎると無月経などの体のトラブルを引き起こすこともあります。市民ランナーがそこまで追い込むのはおすすめできませんので、そうなってくると筋力アップが鍵を握ります。
そのために必要なトレーニングがスクワットです。
スクワットは万能な運動と呼ばれることもあるトレーニングで、ランニングで必要な筋力アップをしつつも、インナーマッスルも鍛えることができます。長時間連続で行うことで筋持久力の向上にも繋がります。さらに消費カロリーも大きいので、体脂肪も燃焼できます。
ランニング向けのスクワットをするときのポイントは「動き続ける」ということです。大きな休みを入れずに1セット10分程度のスクワットを2〜3回行ってください。最初は1セットだけでも十分です。というよりも10分のスクワットも耐えられないはずです。
・ノーマルスクワット
・ブルガリアンスクワット
・フロントランジ
・バックランジ
・ジャンピングランジ
このようなスクワットを10〜30分、種目を変えながら行ってください(こちらもYouTube検索で見つけられます)。きつくなったら休みを入れてかまいません。最初の数回は階段を降りるのもキツくなると思いますが、2週間もすれば体が慣れていきますので継続して行いましょう。
●縄跳び
縄跳びは場所も取らずに、筋力を高めながらも持久力の維持ができるトレーニングです。10分の縄跳びが30分のジョギング相当の負荷があるとした研究結果もあり、時短で効率のいいトレーニングのひとつですが、前に進まないからかランナーには人気がありません。
縄跳びのメリットは、なんといっても狭いエリアでトレーニングできるということ。屋根がある場所ならどこでもトレーニングできるので、梅雨時期でも問題なく練習できます。
跳び方は普通の前跳びでかまいません。筋力をつけたいというのであれば、片足跳びでもいいのですが、無理をするとケガをします。まずは前跳びで10分を目指しましょう。もちろん引っ掛かってもOKです。合計時間が10分であれば十分です。
縄跳びを購入しようとすると、どこで売っているのか迷いますが、100円ショップならどこでも取り扱っています。ただし、使い勝手はよくないので、まずは100円の縄跳びで買ってみて、継続できそうならネットショップなどで、もう少しいいロープを購入しましょう。
ジョギングと同等の効果がありますので、もちろん雨が降っていなければ縄跳びではなくジョギングでもかまいません。つなぎのトレーニングだと考えて、その日の天候に合わせて選びましょう。
■トレーニングだけでなく休養と食事に気をつける
ご紹介したトレーニングは持久力維持に役立つものもありますが、基本的にすべて筋トレに属するトレーニングです。これらを継続する場合に、気をつけなくてはいけないのが休養と食事です。十分な休養と栄養価の高い食事を意識することで、より効率よく鍛えることができます。
休養と食事それぞれの注意点を見ていきましょう。
●48〜72時間の休息と十分な睡眠をとる
筋トレをするときには、同じ筋肉を連続して鍛えないことが重要です。スクワットを1回行ったら次のスクワットまで48〜72時間は開けてください。そうすることでトレーニング前よりも筋力がアップした状態で次のトレーニングを行えます。
これを超回復理論といいますが、スクワットも体幹トレーニングもこの理論をベースにトレーニングするのが理想です。縄跳びは負荷を高めなければジョグと同じですので、毎日しても問題ありません。
反対に休養が長すぎると、せっかくのトレーニング効果が消えてしまいます。基本は中2〜3日、それが難しくても中4日のペースで継続して行いましょう。
しっかりと休養期間を設けることも大切ですが、その期間にきちんと回復していないと意味がありません。回復させる方法はいろいろとありますが、最も効果が高いのは睡眠です。トップアスリートは9〜10時間程度寝ていることも珍しくなく、彼らにとっては寝るのもトレーニングになっています。
日本人は勤勉で寝すぎることを良くないことと思いがちですが、寝ないことには疲労回復ができません。せっかくコツコツトレーニングをしても十分な睡眠がなければ、疲労が溜まってケガにつながります。これは6月だけでなくすべての期間に言えることですので、とにかく睡眠時間はしっかり確保しましょう。
また、梅雨時期は湿度も高く睡眠環境としてはあまり快適とは言えません。眠りが浅いと感じるようであればエアコンのドライ運転を使うか、除湿機を使って部屋の湿度を下げて眠りましょう。
●タンパク質だけでなく炭水化物、脂質、ビタミンも摂る
筋トレと聞くと「タンパク質をたくさん摂らなきゃ」と思う人もいるかもしれませんが、ボディビルダーになるわけではないので、タンパク質ばかりを摂ってもいけません。炭水化物も脂質もきちんと摂取してバランスのよい食事を目指しましょう。
この時期に太っても何の問題もありません。むしろ少し体重が重いくらいのほうが、トレーニングの負荷が増えてメリットになることもあります。
意識して摂ってもらいたいのがビタミンです。特にビタミンB1はランナーに限らず、長時間の運動を行う競技者にとってとても重要な栄養素です。ビタミンB1はエネルギーを作り出すときに必要になる栄養素で、これが不足すると疲労回復が遅れてしまいますし、継続したトレーニングが難しくなります。
必要なビタミンB1の量は年齢によって違いますが、運動によって消費するためランナーは標準摂取目安量よりも多く摂取する必要があります。体重や年齢によって違いますが、できれば毎日2mgのビタミンB1摂取を心掛けましょう。
ビタミンB1の過剰摂取分は尿として排出されますので、「気持ち多め」の摂取でかまいません。とはいえ、食事で毎日2mgものビタミンB1を摂取するのは簡単ではありません。自分の食生活を見直して不足していると感じたらサプリメントも活用しましょう。
■その他のおすすめトレーニング
さすがに筋トレばかりだと気が滅入るという人もいるかと思いますので、上記のトレーニングの合間に取り入れられる雨の日トレーニングをいくつかご紹介します。
・階段トレーニング
・水中ウォーキング
・動的ストレッチ
たまには心拍数を上げて追い込みたいという人には、階段トレーニングがおすすめです。これは階段を上がったり降りたりするだけです。簡単そうに思えますが、おそらくほとんどの人が100〜200段くらいで音を上げます。
筋トレにもなりますし心肺機能に負荷をかけるポイント練習にもなりますので、思いっきり体を動かしたくなったときに行いましょう。
水中ウォーキングは体幹の安定、スムーズな体重移動の習得、水圧によるマッサージ効果などが期待できます。水中ウォーキングに合わせてスイミングも組み合わせれば、肩甲骨周りのストレッチにもなります。疲労が少し溜まっているなというときの気分転換におすすめです。
できれば毎日でも行ってもらいたいのが動的ストレッチです。動的ストレッチは筋肉の可動域を広げますので走りの改善にもつながりますし、普段使っていない筋肉に刺激を入れることもできます。ランナーは足や体幹ばかり鍛えがちですが、健康のためには上半身の筋肉も必要です。
この体づくりの期間にはランニングに必要な筋肉だけでなく、全身に刺激を入れてみましょう。思わぬところでランニングに良い影響をあたえてくれることもあります。
■まとめ
梅雨の時期をどう過ごすかは、ランナーにとって大きな課題のひとつです。この時期に体づくりをきちんと行っておけば夏場に走り込みができ、秋から冬にかけてコンディションが上がっていきます。
今年は秋マラソンがことごとく中止になっているので、トレーニングが無意味と思うかもしれませんが、ランニング人生がここで終わるわけではありません。レースがあってもなくても継続して体を鍛え続けて、マラソン大会が再開されたときに自分史上最高のコンディションでいましょう。
そのために梅雨時期は走行距離を増やすのではなく、筋トレ中心のメニューを組んで「雨だからトレーニングできない」とならないようにしましょう。今のトレーニングが必ず活かされる日が来ると信じて、コツコツ継続していきましょう。