筆者プロフィール
重松貴志(しげまつたかし)
1975年生まれ。フリーライターとしてランニングやマラソン大会の情報発信を手掛けつつ、2020年からランニングのトレーナーを開始。
北京で開催されている万里の長城マラソンの日本事務局代表であり、裸足ランナーとして裸足でフルマラソンを25回以上完走という実績を持つ。
「自由に走る」をテーマに、常識にとらわれないランニングの楽しみ方を提案している。
社会人は平日の日中に仕事があるため、ほとんどの人がランニングをするとなると朝か夕方以降のどちらかになりますよね。「朝起きるのが苦手」という人もいて、結果的に仕事が終わってから走るという人が多いかもしれません。
でも早起きしてのランニングは思った以上にメリットがたくさんあります。そこで、今回は朝ランにどのようなメリットがあるのか、朝ランをするときにどのような注意点があるのか、詳しく解説していきます。
■朝ランをする6つのメリット
朝ランにはメリットが多いとお伝えしましたが、まずは実際にどのような効果が期待できるのかをご紹介します。
・1日の始まりに行うので習慣化しやすい
・自分のコンディションを把握できる
・頭が冴えた状態で仕事が始まる
・ダイエット効果を期待できる
・夏の暑さを回避して走れる
・体内時計がリセットされて睡眠の質が上がる
人によってメリットの大きさは違いますが、一般的にはこの6つのメリットがあります。それぞれのポイントを見ていきましょう。
●1日の始まりに行うので習慣化しやすい
朝ランをする最大のメリットは、習慣化しやすいという点にあります。習慣化するときのコツは後ほど詳しく解説しますが、朝起きて最初にすることがランニングになるので、他の予定に邪魔されることがありません。
会社員だと毎日定時で上がれるわけではありませんし、仕事の後は同僚や友人との飲み会なども入ってきますよね。そうなると仕事が終わってから走るつもりだったのに、予定を変更しなくてはいけなくなることもあります。残業が続くと疲れて走る気にもなれません。
朝ランなら走ることを妨げる要素がほとんどありません。ランニングのために早起きする必要がありますが、起きてしまえばあとは走るだけ。1日5kmのランニングでも、月間走行距離が150kmになります。
月間走行距離がなかなか100kmを超えないという人もいると思いますが、朝ランが習慣化すれば100kmの壁は簡単に超えられます。
●自分のコンディションを把握できる
朝ランをするときには、できるだけ毎日同じコースを走ってください。ペース設定はせずに気持ちよく走りましょう。ただしタイムだけは測っておきましょう。そうすることでその日の自分のコンディションを把握できます。
例えば5kmのコースを30分で走ったとします。次の日は31分かかったら「少し疲労が溜まっているかな?」と推定できます。反対になぜか体が軽くて28分で走っていたら、かなりコンディションがいいと判断できます。
タイムが良かったときは、体に負荷をかけても大丈夫ですので、その日の夕方にインターバルやペース走などのポイント練習をいれ、タイムが悪いときには仕事も早めに切り上げて、十分な睡眠を取るといった判断ができます。
仕事終わりのランニングの場合はこうはいきません。タイムに影響を与える要素があまりにもたくさんあるからです。通勤の疲労や仕事での疲労、その日に食べたものなどの影響を受けますので、自分のコンディションが良いのか悪いのかを判断するのが難しくなるわけです。
ですので、自分の体調を把握するには朝ランが適しているというわけです。
●頭が冴えた状態で仕事が始まる
ランニングをすると血流が良くなりますので、30分程度走っただけでも脳も身体もすっきりした状態になります。走り出すときに「眠たいな」と思っていても、1kmも走れば眠気はどこかに消えてしまい、戻ってきてシャワーを浴びれば、眠たかったことなど忘れてしまいます。
その状態で通勤をして職場についたら、脳はすでにウォーミングアップが終わった状態になっていて、いきなりエンジン全開で仕事を始めることができます。午前中に職場であくびばかりしている人もいると思いますが、朝ランをすることでそれがなくなります。
午前中はゴールデンタイムと呼ばれる仕事がはかどる時間帯です。朝ランをすれば眠気がないので、そのゴールデンタイムに集中力を高めやすくなります。仕事の効率がアップしますし、何よりも仕事を楽しく感じるようになります。
これだけでも大きなメリットですよね。このメリットは会社員よりも、通勤時間がなく自宅で仕事をしているフリーランスのほうが実感できるかもしれません。
●ダイエット効果を期待できる
朝ランは朝ごはんの前に行います。このため人によってはやや空腹を感じるかもしれません。空腹というのは、体内に糖エネルギーが少ない状態になります。糖は走るときのエネルギーになりますが、それが不足すると身体は脂肪をエネルギーにして走るため、体脂肪が減ります。
さらに朝ランが習慣化されば、月間走行距離が増えますので単純に1ヶ月の消費カロリーも増えていきます。もし摂取カロリーを増やさないでいられたら、当然体重は減っていきます。
ダイエットできるかどうかは朝ランをするかどうかだけでは決まりませんが、少なくとも安定的に消費カロリーを増やせるようになり、体重が落ちやすくなるのは間違いありません。本当に痩せられるかどうかは他の要素も大きいので確約はできませんが。
●夏の暑さを回避して走れる
日本の夏はかなり厳しく、最高気温が35℃を超える日も珍しくなくなりました。そのような気温の中を走ることはリスクしかありませんのでおすすめしません。でも、最高気温が35℃になるような日でも早朝は思ったよりも涼しいものです。
暑すぎて走れないなんてこともなく、むしろ夏なのに爽やかに走ることができます。早朝は1日のなかで最も気温が低いため夏のランニングの時間としては最適です。8月の東京で最低気温の平均は25℃前後です。快適とはいい難いですが、ジョギングするには問題はありません。
エアコンの温度設定が28℃くらいで、日中の職場や自宅よりも早朝のほうが涼しいわけですからいかに走りやすいかイメージできるかと思います。暑い中、無理して日中に走るメリットはひとつもありません。早起きして暑さを回避して安全に走りましょう。
●体内時計がリセットされて睡眠の質が上がる
私たちの身体には体内時計というものがあります。この体内時計があるので朝になると起きることができ、夜になると眠たくなります。ところが体内時計はとても繊細で光を浴びることでズレてしまいます。しかも体内時計は1日が24時間よりも少し長くなるように作られています。
そのズレをリセットできるのが太陽の光です。毎朝同じ時間に起きて、走りに出ることで体内時計がリセットされます。これによって生活リズムが安定するというメリットがあります。
体内時計が崩れた状態を放置すると、夜になっても寝付けなくなったり、睡眠が浅くなったりと眠りの質が下がりやすいと言われています。でも朝ランをすれば体内時計がリセットされ、生活リズムが整い、睡眠の質も上がります。
質の高い睡眠ができれば疲労回復もしやすく、また自律神経が整った状態にもなってイライラしにくくなるといったメリットもあります。心と身体が整うのが朝ランというわけです。これだけでも早起きして走るメリットがありますよね。
■朝ランを習慣化するときのコツ
朝ランが良いのはわかったけど続けられる気がしない。そういうランナーの方も多いかと思いますので、朝ランのメリットだけでなく習慣化するときのコツもお伝えしておきます。
●「必要だからする」というマインドを持つ
習慣化というのは思った以上に難易度が高いことは、すでに多くの方が実感していると思います。継続できるということがひとつの才能のように言われることもあります。でも、実際にはそんなことはなく、コツを掴めば意外とどんなことでも継続できます。
まず大事なのは心構えです。それは「やりたい」「やりたくない」で行動を決めないということです。これを判断基準にすると「今日は走りたくないなぁ」という日に走らなくなります。「走りたくないけどがんばろう」というのもNGで、この思考はストレスに繋がります。
自分の気持ちに反する行動を取るわけですから当然です。ストレスは徐々に大きくなり、最終的には耐えきれなくなって「もういいや」となってしまいます。
考え方を変えてください「朝ランは必要だからやる」というように。
これはとても大切なことです。ですので、まずは朝ランをする目的を決めましょう。なんとなく始めるのではなく「健康を維持するため」「体重を落とすため」「フルマラソンを完走するため」といった目的や目標を決めて、それを達成するために必要だから走るようにしましょう。
●起きたらすぐに走りに行く
朝ランを勧めているトレーナーさんがたくさんいますが、ほとんどの人が「準備運動をしっかりすること」と言います。それは正しいことのように思えますが、冬の寒い朝に準備運動なんてしていたら外に出るのが憂鬱になりますし、もっと早く起きなくてはいけなくなります。
スタートから全力で走りたいなら準備運動が必要ですが、寝起きで動けるようになるまで準備運動をしようと思うとかなりの時間をかけなくてはいけなくなります。それでは習慣化するのは困難です。
ここで提案するのは、起きて着替えてすぐに走るという方法です。詳しくは注意点で解説しますが、起きて準備運動なしですぐに走り出しましょう。これをルーチンにして「起きたら走るもの」と脳が覚えさせれば、意外と簡単に習慣化できます。
●ラン仲間を誘ってみる
近所にラン仲間がいる人はラン仲間を誘うのもおすすめです。一緒に走る人がいて走る約束をしたなら「走る」しか選択肢がなくなります。理想は毎日ですが、それは難しいと思いますので、週に1〜2回で構いません。
職場近くにランステなどがあるのであれば、職場が近いラン仲間を誘って、ランステを拠点に走るというのもおすすめです。ランステの多くが朝ランに対応できるように早朝から営業をしていますので、朝活のひとつとしてランニングを取り入れてみましょう。
一緒に走れる仲間が近くにいないという人は、SNSに朝ラン報告を書き込みましょう。誰かに見られているという環境があれば継続しやすくなります。最初に「朝ラン始めます」宣言をしておくと、多くの人が注目してくれますので、ぜひ試してみましょう。
●走れなくても自分を責めない
朝ランに限らず習慣化に失敗する人の多くが、予定通りできなかったことに罪悪感を感じ、それに耐えられなくなって継続を諦めてしまいます。でも、予定通りに走れなかったからといって自分を責める必要なんてありません。
人間ですから調子の悪いときもあります。どうしても走る気になれない日だってあります。走れなくても「そういう日もある」くらいに考えておきましょう。朝ランができない日が数日あったところで、長いランニング人生において大したことではありません。
まじめな人ほど、走らなかった自分を責める傾向にあります。でもそれをして良いことなんてひとつもありません。弱い自分を受け入れて、その弱さを乗り越えていくことを目標にしてコツコツ継続していきましょう。
■朝ランをするときの注意点
朝ランはとてもメリットが多く、習慣化に成功できれば人生が大きく変わることもあります。でも実行するために気をつけなくてはいけないことが3つあります。
・ゆっくりと走り出す
・睡眠時間が少ないときは休む
・走る前に水分補給をしておく
朝ランをする上で、この3点をしっかりと頭に入れておいてください。ただ、これだけではわかりにくいかと思いますので、それぞれの注意点を解説しておきます。
●ゆっくりと走り出す
朝起きてすぐに走り出すほうが習慣化に適しているとお伝えしましたが、実際にそれをする場合には1つだけ気をつけなくてはいけない点があります。それが最初はゆっくりと走るということです。500mくらいは歩いても構いません。間違ってもペース設定などしないでください。
最初の1kmは身体を慣らすためのランだと考えてください。1kmも走ればさすがに体が温まってきますので、そこからが本番です。もちろんそこでも全力で走るのはおすすめしません。朝ランのペースは身体に任せてください。
呼吸が乱れないで、歌を口ずさめるくらいのペースを維持しましょう。それくらいでも十分な負荷になります。最初の1kmは意識的にゆっくりと走り、そこからは自然なペースでOKです。朝ランは生活リズムを整えるために行うものだと割り切ってください。
●睡眠時間が少ないときは休む
もし前日に残業や飲み会などで眠りにつくのが遅くなった場合には、朝ランはお休みにしてください。ランニングをする上で、睡眠はトレーニングよりも重要です。十分な睡眠時間を確保できないのに走ることに意味はありません。
例えば朝ランのために毎朝5時30分に起きるとします。十分な睡眠時間を取るために、少なくとも23時には就寝したいところです。でもそれができずに、就寝時間が24時になったなら翌朝の目覚ましを1時間遅らせてしまいましょう。
身体は眠ることで育ちます。眠っていないのにランニングをしても身体は育ちません。どうしても毎朝走りたいというのであれば、何があっても決めた時間に就寝できるように調整をしましょう。睡眠時間だけは削らないように気をつけてください。
●走る前に水分補給をしておく
私たちは眠っている間に、かなりの量の汗をかいています。このため起きてすぐに走りに行くと脱水症のリスクが高まります。30分程度のジョギングであればそこまで神経質になる必要はありませんが、習慣化として「起きる→水分補給→走り出す」としておくと安心です。
脱水症予防を考えるなら水分補給は水ではなくスポーツドリンクがベストです。水分補給というと水とミネラルを摂取すればいいと思っている人もいますが、糖を一緒に摂取することで体内に水分を留めやすくなります。
摂取する量はコップ1杯程度でかまいません。あまりたくさん飲んでも胃に溜まるだけで吸収しきれません。あまりのどが渇いてないならコップ半分くらいでも十分です。もちろん個人差がありますので、最適な量は自分でいろいろ試しながら見つけましょう。
■まとめ
朝ランのメリットについてご紹介してきましたが、明日からでも走り出したいという気持ちになったかもしれません。その気持ちがあるうちに走り出しましょう。ただ習慣化するには2〜3週間くらいかかりますし、生活リズムが大きく変わるので身体が戸惑ってしまう可能性があります。
いきなり毎日走るのではなく、まずは2日に1回くらいのペースで始めてみましょう。早起きが苦手でないというなら毎日でもかまいませんが、最初から完璧は求めないことです。徐々に朝ランのある生活に移行し、最終的には毎朝30分程度走れるようになればベストです。
朝は空気がきれいで、夏でも爽やかな気分になります。エンジンがかかった状態で仕事をできますので、働くことも楽しくなります。そんなメリットの多い朝ランですが、継続できるかどうかは自分次第。コツコツ積み重ねて、これまで以上にワクワクする毎日を手に入れましょう。