筆者プロフィール
重松貴志(しげまつたかし)
1975年生まれ。フリーライターとしてランニングやマラソン大会の情報発信を手掛けつつ、2020年からランニングのトレーナーを開始。
北京で開催されている万里の長城マラソンの日本事務局代表であり、裸足ランナーとして裸足でフルマラソンを25回以上完走という実績を持つ。
「自由に走る」をテーマに、常識にとらわれないランニングの楽しみ方を提案している。
フルマラソンを普通に完走できるようになったけど、記録はこれ以上伸びそうにない。そうなってくると走る目標がなくなって、モチベーションが下がってきますよね。そういう人におすすめしたいのがウルトラマラソンへの挑戦です。
「ウルトラマラソンって100kmとかでしょ?絶対に無理!」と思うかもしれませんが、フルマラソンを歩かずに完走できるなら、実はそれほど無理なチャレンジではありません。そこで、今回はウルトラマラソンの魅力や練習方法、完走のためのコツをまとめてご紹介していきます。
■魅力がいっぱい!ウルトラマラソンを走る理由
ウルトラマラソンと聞くと100kmマラソンをイメージするかもしれませんが、実はフルマラソンよりも長い距離はすべてウルトラマラソンになります。ということはマラソン大会の後方ブロックからスタートする人たちは、実質すでにウルトラマラソンを走っていることになります。
実際に石垣島ウルトラマラソンのように、43kmの部門が用意されているウルトラマラソン大会もあります。それは極端な例ですが、50〜70km程度に設定されているウルトラマラソンもあって、徐々にステップしていくことができます。
100kmはイメージするのも難しいかもしれませんが、50kmや60kmならなんとかなりそうな気がしますよね。このように走力に見合った距離が用意されているので、ウルトラマラソンのハードルは思ったほどに高くありません。
それでも完走したときの達成感はフルマラソンよりも大きく、長い距離の間に様々なドラマが起きます。走っているというよりも、旅をしているという感覚で景色を楽しめますし、エイドもフルマラソンと違って、トップランナー以外はゆっくりと過ごします。
そして何よりも、ウルトラマラソンを完走するのにスピードはそれほど重要ではありません。走力よりも、自分をコントロールするメンタルの強さを求められ、人生経験が生かされる競技でもあります。
フルマラソンは若さが武器になりますが、ウルトラマラソンは重ねてきた経験が武器になります。そう思うとちょっと挑戦してみたくなりませんか。ただ、ウルトラマラソンでは戦略がとても重要になります。どのような戦略が求められるのか、順を追って解説していきます。
■失敗しないためのウルトラマラソン大会の選び方
ウルトラマラソン完走に向けての戦略で、最も大事なのが大会選びです。ウルトラマラソンは距離が長いので、大会ごとにコースの特徴がまったく違います。これからウルトラマラソンを始めるというのであれば、マラソン大会の難易度をよく考えて大会選びを行いましょう。
その難易度をチェックするときのポイントが下記になります。
・自分の走力に見合った距離の部門がある
・獲得標高が1500m以下
・河川敷コースは避ける
・アクセスしやすい
それぞれのポイントについて解説していきます。
●自分の走力に見合った距離の部門がある
いきなり100kmに挑戦したいという人でなければ、まず大事なのが確実に完走できそうな距離から始めるということです。フルマラソンを完走できるなら、まずは50〜70kmくらいの部門がある大会がおすすめです。
ほとんどのウルトラマラソンは大会名に100kmと入っていても、ちゃんと距離が短い部門もあります。例えば人気の飛騨高山ウルトラマラソンには71km部門があります。100kmが難しくても71kmならなんとかなるような気がしますよね。
最初から無謀な挑戦をするのではなく、まずは短い距離で自信をつけてから100kmを目指しましょう。
●累積標高が1500m以下
日本国内のウルトラマラソンは島や山地で行われることが多く、どうしてもアップダウンが大きくなります。白山・白川郷100kmウルトラマラソンは、累積標高がなんと約2500mもあります。いきなりこういう大会に出ると、かなりの走力がないとDNFになります。
最初はできるだけ、累積標高が1500m以下になる大会を選びましょう。どの大会も公式サイトにコースマップと標高図がありますので、気になる大会は必ずチェックしておきましょう。
●河川敷コースは避ける
累積標高が低い大会として、河川敷のウルトラマラソンがあります。累積標高が100mもないような大会もありますが、実は難易度がかなり高めです。
・陰になる場所がない
・景色が単調
河川敷はずっと太陽の光を浴びながら走ることになり、簡単に熱中症になります。曇ったり小雨だったりすれば走りやすいのですが、それは当日にならないと分かりません。しかも景色の変化がなくとても単調です。
河川敷の大会は記録を狙いやすいというメリットがありますが、このようなデメリットもあるので、初めてのウルトラマラソンとしてはリスクが高いので注意が必要です。
●アクセスしやすい
フルマラソンの大会はアクセスしやすく、会場に行く交通機関の心配がいりません。ところがウルトラマラソンはスタート時間が早朝で、公共の交通機関が動いていません。さらに、アクセスしにくい僻地からのスタートになることも多く、スタート地点近くにホテルがほとんどないことも珍しくありません。
・宿泊施設からスタート会場まで歩いて行ける
・宿泊施設周辺から会場までシャトルバスがある
・大会が送迎付きの宿を用意している
初ウルトラマラソンの場合で、車を持っていないという場合には、このいずれかの条件を満たす大会を選びましょう。
●時間走から始めると不安を解消できる
ウルトラマラソンは100kmなどの決められた距離を走るだけでなく、12時間走や24時間走といった決められた時間で走る大会もあります。フルマラソン以上の距離を走れるかどうか心配という場合には、8時間走や12時間走といった時間走のある大会から始めるという方法もあります。
時間走は1周1〜2kmの周回コースを走り、自由に休憩してもかまいません。関門もありませんので慌てることもなく自分のペースで走り続けることができます。
時間走の場合にはアクセスしやすい公園や競技場で開催されるというメリットもあります。距離走のように完走メダルは出ませんが、自分の実力を測るには最適です。練習の一環として、まずは時間走に挑戦してみるのもおすすめです。
時間走は24時間リレーマラソンなどの個人の部として設定されていることが多いので、気になる人は24時間リレーマラソンの公式サイトをチェックしましょう。
■完走するために必要なウルトラマラソンの練習方法
ウルトラマラソンに参加するとなると、やはりそれなりの練習は必要です。でも、どんな練習をすればいいのかわかりませんよね。むやみに距離を伸ばすとケガをしそうですし、かといってフルマラソンと同じ練習では完走できなさそうですよね。
ウルトラマラソンの練習方法としてはポイントが2つあります。
・レースの半分の距離を2週間に1回走る
・レースで想定している完走時間歩く
それぞれのポイントについて見ていきましょう。
●レースの半分の距離を2週間に1回走る
最低限の走力がないと完走は難しいので、出場するレースの距離が70kmなら35km、100kmなら50kmを2週間に1回走りましょう。もちろんいきなり50km走る必要はなく、徐々に距離を伸ばしていければOKです。
ペースはフルマラソンを走るときよりもゆっくり、レースで想定しているペースで走りましょう。疲労を溜めないように注意してください。これを大会1ヶ月前まで行います。「レースの半分の距離を無理なく走り切る」がテーマです。追い込んで走らないように気をつけましょう。
●レースで想定している完走時間歩く
もうひとつは、レースと同じ時間だけ体を動かし続けることです。100kmを12時間で完走したいと思うのであれば、12時間動くトレーニングを行いましょう。走る必要はなく、12時間歩くだけでOKです。
朝の5時にスタートして夕方の5時に終わるというイメージで、食事時間や休憩時間も含めて12時間でかまいません。おそらく歩けても40kmくらいがいいところかと思います。ただ距離は気にする必要はありません。12時間動くということを体に覚えさせましょう。
これは1ヶ月に1回のペースで、大会の1ヶ月前までに3〜4回行っておきましょう。
これをしておくだけで、頭と体が動き続けることに慣れるので、実際のレースでも後半に気持ちが切れることを防げます。12時間が難しい場合には、8〜10時間程度の山登りでも代用できます。
■ウルトラマラソンを完走するための4つの心得
しっかりと練習をおこなったら、あとはレースを走るだけです。ウルトラマラソンはフルマラソンのように勢いだけで走ると確実に失速します。そうならないようにするために、きちんとレース展開を考えておきましょう。
そのための心得を4つご紹介します。
1.関門時間を確認しメモしておく
2.走り続けずに定期的に休みを入れる
3.エイドの滞在時間を決めておく
4.何があっても諦めない
この4つを忘れなければ完走がグッと近づきます。それぞれの心得を詳しく解説します。
●関門時間を確認しメモしておく
初ウルトラマラソンでよくあるのが、ゆっくり走りすぎて前半の関門に引っかかるというケースです。フルマラソンの距離も走らないまま終了となることもありますので、必ず関門時間をチェックしておき、「関門時間・関門距離・設定ペース」をメモした紙を持っておきましょう。
設定ペースは自分の完走目標時間から逆算してください。必ず守る必要はありませんが、それよりも極端に速くならないように気をつけましょう。ウルトラマラソンで大事なのは貯金を作ろうとしないということです。前半に飛ばすと必ず後半に失速しますので、淡々とペースを維持してください。
その上で関門時間をチェックして、関門に引っかからないようにしてください。
●走り続けずに定期的に休みを入れる
ウルトラマラソンを完走するコツは、上手に歩きを入れることです。ウルトラマラソンは体力を回復させながら走ることも必要になります。すべての距離を走ろうとすると、ひたすら消耗していくだけで回復できません。50分走ったら10分歩くくらいの休みを入れましょう。
思い切って10分間寝っ転がってもかまいません。そのときに足を少しだけ高くしてください。そうすることで足をリフレッシュできます。
●エイドの滞在時間を決めておく
ウルトラマラソンの魅力はエイドにあります。おにぎりなどのエネルギー源だけでなく、地元の名物などもあり、しかもスタッフが温かく迎えてくれます。とても居心地がいいのでついつい長居をしてしまいがちですが、1つのエイドで10分滞在して、エイドが10ヶ所あったら100分ものロスになります。
このロスが後になって効いてきます。レースプランを立てるときには、エイドでの滞在時間を決めておき、実際のレースでもその時間を守るように心がけてください。小さなエイドは5分、大きなエイドを10分と、エイドごとに滞在時間を決めてメモしておくといいでしょう。
●何があっても諦めない
最後はなんといっても「諦めない」ことです。フルマラソン以上の距離を走るわけですから、想定していないことが次々に起こります。膝が痛くて走れなくなることもありますし、眠気に襲われてしまうようなこともあります。でも、そういうピンチを乗り越えていくのがウルトラマラソンです。
私もウルトラマラソンの80km過ぎで、まったく走れなくなって絶望的な状況に追い込まれたことがあります。このままではどうしても次の関門に引っかかるので、思い切ってその場で寝ることにしました。寝て回復させようと考えたわけです。時間がないのに20分ほど眠り、そこから集中力が戻ってなんとか完走しました。
どんな状況になっても、必ず突破口があると信じて諦めないことが大事です。途中で眠るというのは大きなギャンブルでしたが、諦めなかったからこその判断でした。最後の1分1秒まで自分を信じて走ること。これがウルトラマラソンを完走する上で、最も重要なポイントになります。
■まとめ
ウルトラマラソンを走る人は自分とは別次元の人というイメージがあるかもしれませんが、それはランニングを始めたときにフルマラソンランナーを超人だと思ったのと同じことです。気がつけばフルマラソンを走れるようになっていましたよね。
100kmのウルトラマラソンだって、きちんとトレーニングを継続すれば、絶対に手が届かない領域ではありません。最初から100kmは無理でも50kmくらいから徐々に距離を伸ばせば、100kmだって完走できるようになります。
しかもウルトラマラソンは経験が重要な競技ですので、若い頃のようにスピードを出せなくても走り切ることができます。ただ、いきあたりばったりで走れるほどは甘くありませんので、ここでご紹介した内容をしっかりと頭に入れて大会を選び、十分なトレーニングを行って挑むようにしましょう。