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マラソン

2020/2/13

“マラソン完走請負人” 牧野仁の指導法 前編『楽しく走るための歩きかた』

42.195kmのフルマラソンを走り抜くなんて自分には難しいかも…。そんなふうに不安を抱いてはいませんか? 今回はそんな初心者ランナーのため、“マラソン完走請負人”の牧野仁さんをお迎えして、初マラソンに向かう心構えを伺いました。前編では牧野さんのマラソン人生を振り返りつつ、初心者ランナーに自信をつけてもらうための指導法を話していただきました。

<“マラソン完走請負人”になるまで 20代で一念発起>

――本日はよろしくお願いいたします。まずはご自身でもフルマラソンを走られる牧野さんとマラソンとの出会いを教えていただけますか。

牧野:私は中学生のころから陸上をやってきました。一度はボクシングに興味が移り、高校卒業後はボクシングジムに通っていましたが、それでもいつか叶えたい大きな夢としてマラソンは常に頭の片隅にありました。ボクシングのロードワークで走る程度のスタミナでは42.195kmの完走するのは難しいと感じていたので、26、7歳の頃に一念発起して本格的にチャレンジすることにしました。

――現在は完走請負人となった牧野さんですが、初めから完走することはできたのですか?

牧野:最初から制限時間6時間のレースでなんとか完走することができたんですが、練習では足を痛めましたし、これは考え方を根本的に直さなければいけないと感じました。当時はそれと同時にトレーナーの勉強をしていたので、怪我の予防からスタートし、同時にトライアスロンをやったり、専門学校の先生をやったりと様々な経験するなかで知識を増やしていきました。

――その後はアスレティックトレーナー、ストレングス&コンディショニングトレーナーとしての活動され、市民ランナー向けの教室も開かれています。そのきっかけも教えてください。

牧野:トレーナー養成の専門学校で働いていたときのことです。その時は指導した生徒をインカレで優勝、準優勝するような強豪チームへ送り出していたのですが、そういったチームを見学した時にトップレベルの選手でも“走れない選手”が多いことに気づきました。パタパタと足先で走ってしまう、要するに股関節をうまく使って走れない選手が多いことに疑問が湧いたんです。「トップの選手でも走り方って習わないのか」、と。

ウォーミングアップひとつをとっても、「なぜそれをしているのか?」を尋ねると、多くの選手は「習慣だから」と答えていました。適切な走り方はもちろんですが、ウォーミングアップやクールダウンの意味から、怪我の予防の重要性までを広く啓蒙していかなければいけないと感じました。専門学校の教員を退職するタイミングで独立し、市民ランナーに教える活動を始めました。

――トップ選手でも走り方ができていないというのであれば、一般の市民ランナーとなればなおさらそういった人が多かったということですか?

牧野:そうですね。十分なウォーミングアップをせずに怪我をしてしまう人が非常に多かったです。当初はトレーナーとしての立場での運動教室やランニング教室として始めたんですが、基礎体力を作るドリルから走り方を教えるなど徐々に初心者向け教室に変わっていきました。それを私が始めたのが2006年。業界にはまだほとんど人がいなかったこともタイミング的にも非常に良かったと思います。東京マラソンのスタートが2007年ですから、2006年は空白の1年でマラソンブームの夜明け前でした。

<歩けなければ、走れない>

――牧野さんが走りを教えているときに意識しているポイントはどのようなことですか?

牧野:私がよく言うのは「教えないということを教えている」ことです。運動やスポーツは真似をして上達していくもの。自分からコツを掴んだ人が長くハマっていきます。なのでコツを掴ませることを丁寧に教えています。一度できたことを繰り返したほうがより上達も早いので、できなかったものはやらなくていいと教えます。できないことを無理やりやらせても、劣等感ばかりが先行してしまい上達はしないですからね。

――そのコツを掴むためには具体的にはどのようなことトレーニングするのですか?

牧野:運動そのものに慣れていない人がいきなり走り出すと体への負担が大きくなってしまうので、まずは歩くことから始めます。当たり前のことですが、歩けなければ走ることはできない。マラソン大会に同行すると「練習不足の人が来ている」と気づくことがよくあります。どうして気づくかといえば、歩き方です。だらだらとした歩き方しかできていない人は、当然走りもだらっとしてしまうんです。

――歩き方でわかってしまうのですね。

牧野:そうです。私が教える時は、まずは自分の歩数を知ってもらうことから始めます。1分間に何歩くらい移動するのか。ちなみに、私の言う「だらだらと歩く」というのは1分間に約100歩のペースです。これが1秒間に2歩(1分間に約120歩)のペースになると「早歩き」になり、これくらいで歩けるようになれば目に見えて姿勢がよくなります。姿勢がよくないと股関節がうまく曲がらないので足を前に出すことはできませんが、早く歩こうとすれば自然と顔が上がり、背筋も伸びて姿勢がよくなります。

 そして、走りに関してはゆっくりでも1分間に約160歩で、歩きに比べれば運動強度が1.5倍以上にもなります。歩くことができてない人には、そもそも走らせてはいけないと考えます。普段デスクワークをしている人は自宅から駅までと、駅から会社までくらいしか歩かない。そうすると1日30分、3000歩も歩かない計算になる。そういう人に「健康のために1日30分間の運動をしましょう」と言ったら、丸1日分の運動よりも体を動かすことになりますから。

――なるほど。日頃から体を動かしておかないと、わずか30分でも体には大きな負担になるということですね。

牧野:その通りです。そのため、初心者に関しては2~3kmの距離のトレーニングでも、九割は歩きから始めます。いきなり走ると最初の100mでも心拍数は130~140くらいまで上がるもの。そこまで上がってしまうと体力が続かなくなるので、無理のないように歩いたり止まったりしてもらう。私がゆっくり歩くスピードが1km約12分のペースなので、そのくらいであれば初心者の方でもなんとかついてこられる。まずはそこに慣れるような練習をして、徐々に体力をつけてもらっています。

――ランニング教室と聞くと、やはりたくさん走るというイメージでした。歩いてもいいと聞くと安心できます。

牧野:途中で歩いてでも「できる」という自信を持たせてあげることが大切です。そこまでたどりつくと、みんな調子に乗ってきて、どんどんとハマっていく。大事にしているのは“どうやったら自信をつけてくれるのか”ということ。だからこそ一番低いレベルから教えていってあげる。そうすれば、集団の中でも劣等感を感じることなくやっていけるんです。

後編に続く。

インタビュー取材 池田鉄平
文章・写真 石川遼

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